拡散テンソル画像(DTI)を用いたラジオミクス解析による放射線治療後認知機能低下の早期予測に関する論文がApplied Sciences誌に掲載されました(著者:Jinchen Wang先生 (医理工学院生物指標画像科学分野・大学院生) , Khin Khin Tha先生 (同准教授), 小野寺俊輔先生 (現 市立釧路総合病院)他)
- 発表論文
DTI Histogram and Texture Features as Early Predictors of Post-Radiotherapy Cognitive Decline
受理日: 2025年6月13日
Authers Jincheng Wang, Philip Kyeremeh Jnr Oppong, Maho Kitagawa, Hidefumi Aoyama, Satoshi Terae, Khin Khin Tha
雑誌名 https://www.mdpi.com/2076-3417/15/12/6794 http://10.3390/app15126794
本研究は、拡散テンソル画像(DTI)に基づくラジオミクス特徴量の解析を通じて、脳転移に対する放射線治療(RT)直後における白質の微細構造変化が、将来的な認知機能低下を予測できるかどうかを検討したものです。結果、RT直後に観察されたADmean(軸方向拡散率の平均値)、ADskewness(軸方向拡散率の歪度)、RDkurtosis(放射状拡散率の尖度)の変化と、RT後4か月目のsemantic fluency(語彙流暢性)との有意な相関が明らかになりました。本結果は、これらDTIラジオミクス特徴量がRT後の認知機能低下の予測因子として有用であることを示唆します。
本研究成果は、RT実施後早期から患者の認知機能低下のリスクを評価できる可能性を示しており、個別の治療戦略や介入を検討するうえで有用な知見であると考えます。今後は、より大規模かつ多施設的な検証が進むことで、臨床応用に向けた信頼性が高まることを期待します。 ( Khin Khin Tha)
この研究は、全脳照射による認知機能への影響の客観的なサロゲートマーカーとして画像情報を用いることの可能性を探索したものです。認知機能に対する影響に関する解析については、すでに2014年に報告されています(Onodera S, Aoyama H, et al. J Neurooncol. 2014 Nov;120(2):311-9. doi: 10.1007/s11060-014-1550-y.)。研究を立ち上げたのが2009年であり16年の歳月を要しましたが、Tha先生・Wang先生のご努力で論文化までこぎつけたことに心より感謝申し上げます。また小野寺先生が根気強く認知機能検査データを取り続けなければ結実しなかったものであり、同氏のご努力にも敬意を表します。さらに当時、日本に存在しなかった放射線治療後の認知機能を評価する検査バッテリーの作成において全くのゼロから全面的に協力してくださった本学精神科の久住 一郎先生(前教授・当時准教授)、橋本直樹先生(現准教授)にも改めてお礼申し上げます。本研究は表面的な画像情報だけではなく放射線治療後の長期間の緻密な認知機能検査データに裏付けされた貴重な研究であり、今後の同疾患における認知機能への影響を最小限に抑えた全脳照射照射線量の最適化に関する研究につなげることができれば幸いです。 (青山英史)