教授からの挨拶

まず、このホームページに訪れて下さったことにお礼申し上げます。もうすぐ当教室が放射線治療学教室として再スタートしてからまる4年になろうとしています。体制も固まり、またコロナに伴う種々の行動規制も緩和されたこともあいまって、皆様の活動もますます盛んになり、また少しずつではありますが教室員も増え始めてきたこと、大変嬉しく思っています。

さてここで北海道大学の放射線治療の組織構造について少し紹介しておきます。診療と教育、研究活動で少しずつ構成員に違いがあるので理解しにくい部分のあるのですが、まず「研究組織」から紹介するのが分かりやすいと思います。

一番大きな枠組みは、「研究組織」としての「医理工学グローバルセンター・放射線治療部門」となります(https://gcb.med.hokudai.ac.jp/JP/members.html)。そこの部門長を私が担当し、その下に放射線腫瘍医からなる「放射線治療医学セクション」、医学物理士からなる「粒子線医理工学セクション」と「放射線医理工学セクション」があり、前者は主に陽子線治療関連、後者は高精度X線治療関連の研究を担当します。放射線生物学に関する研究を担うのは「生物医理工学セクション」であり、ここは基礎医学研究者の指導の下で、医学院(医師)・医理工学院(工学系・保健医学系)の大学院生ががんに関する研究を行っています。またこれらとは別に「先端放射線治療開発学セクション」は医理工連携・産学連携での新規治療技術の開発を行う部門があります。このように研究組織としては、5セクションからなる大きな組織となりますが、個々の研究は、セクション間をまたぎ色々な形で展開しています。例えば「機器開発」や「放射線増感」などの純粋な医理工学的研究のほか、「放射線照射法の技術的な違いが腫瘍制御や正常組織に及ぼす影響の予測」などの純粋な臨床腫瘍学などがあります。また当然ですが、新たな治療法を開発・検証する「臨床試験」は「単施設」「道内関連施設」「全国多施設」「海外との共同研究」など様々な規模で、全臓器において他診療科と協力する形で展開されており、その幾つかでは研究を主導する立場を務めています。また、医理工学グローバルセンターでは、毎年夏に国際シンポジウム「GCB Biomedical Science and Engineering Symposium」を開催しています。これは「医理工学」をテーマに、米国スタンフォード大学と共催する国際シンポジウムで、2023年度で10回目となりました。第10回目は「オリゴ転移(oligometastases)」をテーマとし、北海道大学、スタンフォード大学、国内研究機関をはじめ、米国ジョンズホプキンス大学、韓国成均館大学、台湾長庚大学から演者を招待し、約40か国から200名を超える参加がありました。使用言語は英語になりますが、若手だけではなく我々中堅以上にとっても良い練習の機会になっています。なお海外からの訪問者は年を通してくるため、国際交流に興味がある方にとっては面白いかもしれません。

次に「診療」における枠組みですが、前述の「放射線治療医学セクション」に属する医師が、北大病院では「放射線治療科・陽子線治療センター」で放射線腫瘍医として診療活動を行っています。また医学物理士は病院では「医学物理室」に所属して高精度治療計画の作成やQA/QCを行っています。陽子線治療や強度変調X線治療などの高精度放射線治療を行うためには、医師と医学物理士・診療放射線技師との綿密な連携が必要です。毎日夕方4時~5時に、医師と医学物理士が集まり、全症例での治療方針の確認や、照射方法の確認、作成された高精度治療計画の確認を行っています。また症例によっては他科の医師にも出席していただき治療方針を検討することもあります。なお、放射線腫瘍医は「研究分野」としての専門臓器を持っていますが、日常診療では全臓器のがんを扱う必要があります。そのため診察時に不明なところは、この場で相談してから治療方針を決めることができますので、入局直後から外来に出て活躍できるのも、この科の特徴と言えるかもしれません。北大病院では、特に近年、陽子線治療をはじめとした高精度放射線治療件数は増加の一途をたどっており、昨年度約1000人の放射線治療を行いました。

最後に「教育」ですが、学部教育において医師が担当しているのは、医学科の4年生の講義「放射線治療学」と、4年生後期から5年生前期の「全科臨床実習」、6年生前期の「選択実習」になります。令和3年度は「優秀科目賞」をいただくことができました。これは我々にとって大きな励みになりました。この場をお借りしてお礼申し上げます。これからも誠意を持って学生教育に望ませていただくつもりです。なお、保健学科「放射線技術科学専攻」の放射線治療の講義も一部担当させていただいております。大学院教育では、直接的に関連しているのは医学科卒を対象とした「医学院・放射線治療学」となります。当教室では、ほとんどの大学院生は臨床研修制度の専攻医の研修(放射線治療専門医)と同時平行で臨床腫瘍学を題材としたテーマで研究に取り組んでいます。研究内容によっては、医学物理士や数理モデルや生物学など理工系の専門家にご協力を仰ぎ、なるべく本人の希望に沿った研究をできるように心がけています。なお、医理工系・保健医学系からの大学院生には、「医理工学院」があります。研究内容によっては、我々と協力して研究を行うこともありますので、ホームページで調べてみてください。

最後に中高生・医学生・研修医へのメッセージ

放射線治療学の分野は、学際領域としても裾野が広く、活躍する場は世界に広がっています。また、地域において「がんの標準治療」を行うためには、その地域の中核病院で「放射線治療」ができる必要があります。ただ、残念なことに日本では、大都市圏などの一部の地域を除き、多くの地方では「がんの標準治療」ができていないという現実があります。みなさんの地元はどうでしょうか?

放射線治療はがんを完全に治しきる目的(根治治療)でも使われますが、がんに伴う痛みや出血を止める手段(緩和治療)としても必須な手段です。多くの問題は、放射線腫瘍医が欧米並みに増えれば解決することです。「がん」は身近な病気です。医療を通じて地域の人たちの役に立ちたいという方、世界の舞台で活躍したい方、どのような方にとってもこの分野は無限の可能性が広がっています。北海道大学医学部放射線治療学教室は門戸を広く空けておりますので、少しでも興味を持った方はいつでも門を叩いてください。見学も大歓迎です。

令和5年9月吉日 青山 英史

令和元年 教授着任時の挨拶

令和元年12月1日付で大学院医学研究院 放射線科学分野 放射線治療学教室教授を拝命いたしました。北大病院では放射線治療科長、陽子線治療センター長を併任し、診療にあたります。どうぞよろしくお願いします。

放射線科学は放射線治療学、画像診断学、IVR、核医学という広い領域を包括する名称です。同領域はこれまで放射線治療学と画像診断学・IVRを担当する放射線医学教室と核医学を担当する核医学教室で構成されておりました。この度、放射線科学を放射線治療学教室と画像診断学教室の二つの教室に再編にすることになり、独立した放射線治療学教室が誕生することになりました。

本学に放射線科教室が設置されたのは1949年であり、今年(2019年)で70年となります。それぞれの時代で、先進的な優れた研究が行われてきました。近年では、脳の定位放射線照射に始まり、肺癌などの動く腫瘍を対象とした体幹部定位放射線照射、複雑な形状の腫瘍に放射線の分布を一致させる照射技術である強度変調放射線治療などの高精度放射線治療に関連する領域において、照射技術に関する研究や臨床研究がさかんに行われてきました。その技術面での成果の結実の一つが陽子線治療センターの開設(2014年)であり、臨床面での結実の一つが転移性脳腫瘍を対象とした全国多施設無作為割り付け臨床試験(JAMA 2006, JAMA Oncol 2015)といえます。これからは放射線医理工学教室と協力し、これまでの流れを踏襲し、さらに発展させていく所存です。特に陽子線治療の臨床面での研究は、当教室にとって大きなミッションと考えています。

当教室には二つの大きな使命があります。その一つは先進的な研究を行い、その結果を世界に発信しつづけていくことであり、もう一つは北海道全域における放射線治療の更なる充実です。いずれにおいても、その鍵となるのは、意欲のある放射線治療医を一人でも多く育てることです。そのためには学部教育が大切であることは言うまでもありません。これから、多くの若者と出会い、共に放射線治療学教室の新たな歴史を作っていくこと、大変楽しみにしています。

2019年12月吉日 青山 英史