動体追跡放射線治療

北海道大学大学院医学研究科 放射線医学分野

教授 白土博樹

 

キーワード

同期照射、動体追跡 動体追尾技術、呼吸性移動、パターン認識技術、4次元放射線治療

 

1.はじめに

我々は1989年より頭蓋内病変と頭頸部病変へのリニアックを用いた定位放射線照射法を開発し研究してきた。脳定位放射線照射では、頭蓋骨自体の固定と固定装置に座標中心を持たせることにより放射線治療の精度が上がった。しかし、柔らかく、しかも動きの伴う体幹部の定位放射線照射では、体外からの固定法では 治療精度の向上が望めない。最近、体内の動きが生体の放射線治療精度に与える影響についての解析が進むにつれ、臓器の動きが伴う場合、あるいは腫瘍の位置 決めが難しい部位では、腫瘍そのものに座標中心を持たせ、リアルタイムにその位置を把握し、これに合わせた放射線照射法を開発する必要があることがわかった。この目的で、1995年から基礎実験を開始し、1998年に動体追跡照射装置を文部省科学研究費の援助を得て開発した。以下に、その概要と初期治療成 績を述べる。

 

しかし、ここで言う高精度とは、たかだか± 1mmとか、1秒に30回程度の3次元位置認識のレベルであり、癌細胞ひとつひとつを定位的に照射することは不可能で、細胞内のミリ秒単位の情報伝達に対しては全くおおざっぱな治療である。生体内の予測不可能な事象にどのように対処するべきなのか、”定位”という言葉に対する感性をさらに研ぎ澄ませていくことが、先端放射線治療の将来に大きな意義があると考えている。

 

2.方法

2.1.動体追跡照射装置

動体追跡照射装置は、通常のX線リニアックの性能を全て備えながら、動きを持つ体内病変の照射を± 1mmで行うことを目的とした。リニアックは4MVと10MV(EXL-20DP、三菱電機株式会社)で、60対のmulti-leaf collimatorを有し、中央部10cmは照射中心で5mmのleafである。
具体的にはまず、腫瘍内部あるいはその周辺に真球(径1.5-2mm)の金マーカーを刺入する。この後、CT検査を行い、3次元治療計画を行い、腫瘍とマーカーの3次元的位置関係のデータを動体追跡装置に送る。動体追跡装置は、4対 のX線透視装置をリニアック周辺に装備し、それらのX線ビームがすべて治療用X線のアイソセンターを通るようにする(図1)。

 

図1.動体追跡装置と同期する医療用直線加速器

(15:リニアックガントリー、21,22:X線カメラ)

図2.動体追跡X線治療と体内に刺入する2mm金マーカー

 

2.2.動体追跡装置を用いた同期照射

図2に動体追跡X線治療と体内に刺入する2mm金マーカーを示す。患者を皮膚マークでまずリニアック台にセットアップする。4対のうちの2対のX線透視装置を用いて、まず放射線治療前に透視し、体内マーカーの3次元位置を計算する。X線透視装置は4対あることで、リニアックガントリー(回転しながら照射する部位)がどの位置にあろうとも、死角なく透視可能となっている。このX線画像上に、あらかじめ3次元治療計画装置から転送されていた腫瘍とマーカーの3次元的位置を透視画像上に投影し、実際のマーカー位置をこの計画マーカー位置に重ねることで、患者セットアップを行う。続いて、放射線治療中は、マーカーの形状は0.1mmマトリックスのテンプレート画像として記憶しておき(図3)、これと透視画像との比較をリアルタイムパターン認識技術にて毎秒30回行う。計画された3次元位置に金マーカーが来た瞬間のみ、X線照射がなされる構造である(図4)。

 

図3.腫瘍と腫瘍内あるいは近傍に入れられたマーカー像。

マーカーのテンプレートをコンピューターにあらかじめ覚えさせておく。

 

図4.動体追跡装置を用いた同期照射のコンセプト

 

位置認識から照射までの遅れは0.09秒で、この遅れは速度と加速度の補正を行って、0.09秒後の位置を予測して照射できる。この治療方法は、動体追跡放射線治療(Real-time Tumor-tracking Radiotherapy)として発表され、その照射方法は迎撃照射法(Wait and Shoot radiation method)とも呼ばれる。

 

3.結果

3.1.人体模型(人体ファントーム)

人体ファントームの中に金マーカーを留置し、このファントームが呼吸性移動の如く動くようにして患者治療台に載せ、照射実験を行った。この結果、動体追跡照射法を行うことで、余分な照射範囲が激減し、正確な照射が可能となることがわかった(図5)。

 

動体追跡なし       動体追跡照射法

図5.動体追跡装置を用いた同期照射の効果

 

3.2.人体

腫瘍近傍に刺した金マーカーの動きを正確に記録できるので、腫瘍の動く軌跡が世界で初めて明らかにされ(図6)、その正確な位置を元に、計画された位置に腫瘍が来た瞬間のみ照射が可能となった(図7)。

 

図6.肺癌の動きの軌跡を存在部位別に気管の模型図に載せて表示してみた。左上の線が1cmにあたり、軌跡のサイズは誇張されている。下肺野での腫瘍の動きが大きいのがわかる

図7.ある肺癌の動いた軌跡(金マーカーの軌跡)を示す。
動体追跡照射は、治療用放射線ビームは、灰色部分に腫瘍が存在する場合のみ照射された。
従来よりも正常の肺が照射される体積が大きく減ることがわかる。

 

4.結論

放射線治療のさらなる治療成績の向上を追求する上で、静体ではなく動体への線量分布の精度を研究することが今後大切である。正常組織に優しい放射線治療の自由度を向上させることで、今までにない高い治療成績を挙げる可能性がある。近未来に、ミリメートル以下、マイクロメートルレベルでの診断と定位照射が可能となるであろう。

 

5.文献

1. Harada T, Shirato H, Ogura S, Oizumi S, Yamazaki K, Shimizu S, Onimaru R, Miyasaka K, Nishimura M, Dosaka-Akita H. Real-time tumor-tracking radiation therapy for lung carcinoma by the aid of insertion of a gold marker using bronchofiberscopy. Cancer. 2002;95(8):1720-7.

2. Seppenwoolde Y, Shirato H, Kitamura K, Shimizu S, van Herk M, Lebesque JV, Miyasaka Precise and real-time measurement of 3D tumor motion in lung due to breathing and heartbeat, measured during radiotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2002;53(4):822-34.

3. Shimizu S, Shirato H, Ogura S, Akita-Dosaka H, Kitamura K, Nishioka T, Kagei K, Nishimura M, Miyasaka K. Detection of lung tumor movement in real-time tumor-tracking radiotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2001 ;51(2):304-10.

4. Shirato H, Shimizu S, Kunieda T, Kitamura K, van Herk M, Kagei K, Nishioka T, Hashimoto S, Fujita K, Aoyama H, Tsuchiya K, Kudo K, Miyasaka K. Physical aspects of a real-time tumor-tracking system for gated radiotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2000;48(4):1187-95.

5. Shirato H, Shimizu S, Kitamura K,et al. Four-dimensional treatment planning and fluoroscopic real-time tumor tracking radiotherapy for moving tumor. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2000;48(2):435-42.

6. Shirato H, Shimizu S, Shimizu T, et al. Real-time Tumor-tracking radiotherapy. Lancet 1999; 353: 1331-1332.

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