研究

  1. 画像診断およびInterventional radiology(IVR)に関する研究

    画像診断に関しては、(1)単純撮影と造影検査(バリウム造影、胆道造影など)、血管造影を用いた研究、が最も早くから行われ、次いで(2)核医学検査、(3)CT、(4)超音波検査、(5)MRIを用いた研究が行われてきた。種々の画像診断により、各種疾患の診断精度が向上し、適切な治療計画やより正確な治療効果判定が行われることとなり、医療の進歩に多きく寄与してきた。また、血管造影や超音波検査の技術、CTやMRIを応用した低侵襲の治療であるInterventional radiology(IVR)も行ってきた。

    1. 単純撮影と造影検査、血管造影を用いた研究

      1960年代後半から、大澤忠(後の自治医科大学教授)、柴田茂、森田穣、宮坂和男、竹井秀敏らが様々な疾患の画像所見と、診断の精度や有用性の研究を行った。当時の当講座の特色ある研究として、脊椎脊髄領域の血管造影の研究、甲状腺疾患における動脈造影の研究があげられる。また、1980年代には、須崎一雄が、磁気ビデオディスクに造影検査を連続記録することで、下咽頭・頸部食道の嚥下機能の定量的検査法を開発した。

    2. 核医学検査

      1970年代から、古舘正從、伊藤和夫らが、核医学検査を用いて、甲状線疾患、副甲状腺疾患、骨疾患、肺血流や腎血流動態などの研究を行った。1983年には核医学講座が開設され、当時放射線科助教授であった古舘正従が初代教授に就任した。

    3. CT

      1976年に頭部専用のCT装置が、1981年には全身用のCT装置が北海道大学附属病院に設置された。CTは、人体の横断面の断層画像が得られ、かつ、病変と正常組織とを識別可能とした画期的な診断装置として登場した。CTで、様々な疾患がどのように描出されるのかがよくわかっていなかった時期であり、種々の疾患のCT所見、適切な造影剤の使い方と撮像のタイミング、ダイナミックCTによる肝腫瘍の血行動態の評価、画像所見と病理組織との対比などについて、精力的に研究が行われた。1970年代後半から、宮坂和男、竹井秀敏、阿部悟らが、中枢神経系疾患に関してCTを用いた研究を行ってきた。特に、脊椎疾患に関する研究を精力的に行い、頚椎症、後縦靭帯骨化症、環軸椎亜脱臼などの画像所見や病理所見との対比を明らかにした。 1980年代からは藤田信行らが胸腹部の疾患に関して、CTを用いた研究を行ってきた。1996年には、藤田信行がそれまでの経験と研究成果を集大成した「腹部CT診断学」を著し、医師の間で広く読まれる教科書となっている。1990年代には、吉川裕幸が、CT検査で用いた非イオン性造影剤の遅発性副作用について、帯広構成病院で研究した。この遅発性副作用は、8%に生じ、即時副作用よりも高い頻度であることを明らかにした。2000年以降は、マルチスライスCTが導入され、CTの体軸方向の解像力や時間分解能が飛躍的に向上した。また、人体の3次元画像が容易に得られるようになった。工藤與亮らは、マルチスライスCTで前脊髄動脈を描出できることを示した。小野寺祐也らはCTデータを用いた仮想気管支内視鏡の研究を行った。これにより、気管支内視鏡のシミュレーションが可能となり、実際の気管支内視鏡手技がスムーズに、かつ、より正確に行えるようになった。また、形態診断のみでなく、CTを用いた機能診断の研究も行われ、工藤與亮、寺江聡らは、CTを用いた脳血流解析の研究を行い、脳血流量・脳血液量をより正確に計算する方法を開発した。工藤與亮は、解析方法にさらに改良を加え、より精度の高い脳血流解析ソフトを開発し、インターネット上に公開した。

    4. 超音波検査

      1980年代後半からは、超音波を用いた画像検査の研究も行ってきた。丁子清らは、用手圧迫により、肝血管腫のエコー輝度が低下することを見いだした。2000年代以降は唐少珊大学院生が宮坂和男教授、清水 匡助手指導の下で生体部分肝移植後グラフトの門脈血流に関するドプラ波形の類型化、動脈波形と血管閉塞、肝機能の関係の検討し、移植後の血管系合併症の正確な評価の指標を提供した。また、朱強大学院生は腎腫瘍凍結治療後の評価に造影超音波が有用であることを示した。現在は、様々な疾患における超音波造影剤の有用性の検討を行っている。

    5. MRI

      1988年にMRI装置が、北海道大学附属病院に設置された。 MRIは、CTと比べて、放射線被曝がなく、軟部組織コントラストが高いという利点がある。軟部組織コントラストが高いので、病変と正常組織との識別が、CTよりも容易である。また、任意の断層面を直接撮像できる点も、MRI登場時のCTと比べると大きな利点であった。CT登場時と同様に、種々の疾患のMRI所見に関する研究が行われた。当初は、特に脳脊髄疾患のMRI画像所見に関する研究が積極的に行われ、種々の疾患のMRI所見を報告した。次第に、多部位の疾患での研究も盛んに行われるようになった。2000年代に、児玉芳尚らは、肝エキノコッカス症のMRI所見を分析し、その特徴を解明した。また、形態診断のみならず、MRIを用いた機能診断の研究も行われた。1990年代に、寺江聡らは、cine-MRIを用いて、脊髄空洞症を伴うキアリ1型奇形では、小脳扁桃と延髄の上下の拍動が増大していることを見いだした。2000年代には、工藤與亮らが、内頚靜脈の流速が、呼吸状態で変化し、MRIの信号に影響を及ぼすことを発表した。2009年以降は3Tesla MRI導入に伴い、加藤扶美らが3Teslaでのマルチトランスミット法を併用した乳腺MRI、真鍋徳子らが心筋のMRIストレイン研究を左室および右室に応用し発表している。2010年以降は3Tesla MRIでのマルチトランスミット法導入に伴い、加藤扶美らが3Teslaでの乳腺MRI、真鍋徳子らが心筋のMRIパーフュージョンやストレイン研究を臨床応用し発表している。

    6. Interventional radiology(IVR)

      血管造影の手技を用い、血管内から治療するvascular IVR、超音波やCT、MRIを用いて体表から直接病変に到達して治療するnon-vascular IVRに大別される。1970年代から、森田穣、宮坂和男、竹井秀敏、阿部悟、篠原正裕、丁子清、齋藤博哉らが、取り組んできた。2000年代には、遠藤英穂、清水 匡らが腹部領域で回転DSAによる3次元再構成画像の有用性を示した。これによって、高精度な複雑な血管解剖の確認や定量化が可能となり、vascular IVRがより正確、安全に行えるようになった。また、経皮凍結治療の研究も行っており、朱強大学院生らは腎凍結治療後のMRI画像と病理組織の関係を、阿保大介大学院生は腎凍結治療後辺縁部のアポトーシスの存在を示した。また、作原祐介らは子宮筋腫のMRI誘導下経皮凍結治療の結果、他の治療法と比較して、筋腫の縮小率が高く、治療中の痛みも少ないことを示した。肝腫瘍、腎腫瘍、子宮筋腫などの治療法として有望である。現在、厚生労働省がん研究助成金「がん治療におけるIVRの適応と手技の標準化に関する研究」班において、「肺腫瘍に対する経皮的ラジオ波凝固療法についての第I/II相臨床試験」、「症候性子宮筋腫に対するゼラチンスポンジを用いた子宮動脈塞栓術(Uterine artery embolization:UAE)についての第I/II相臨床試験」、「肝細胞癌に対する肝動注用シスプラチンを用いた肝動脈化学塞栓療法の第I/II相試験」、「A Phase II Trial of Transcatheter Arterial Chemoembolization for Unresectable Hepatocellular Carcinoma with Epirubicin / Doxorubicin-Lipiodol Emulsion and Gelatin Particles」の多施設共同研究に参加し、エビデンスに基づいたIVRの確立に貢献している。

    7. PACSに関する研究

      入江五朗(2代目教授)らは、PACS (Picture Archiving and Communication System) の研究を行い、これに関連した画像圧縮、画像伝送、モニターでの画質などの研究を行った。1988年に、世界に先駆けて病院規模のPACSを北海道大学附属病院に導入し、FCR(Fuji Computed Radiography)の積極的導入などで、北海道大学附属病院放射線部で生じるほとんどの画像をデジタル化した。当時としては、画期的なシステムであった。ただし、当時のコンピュータの処理能力やネットワークの伝送速度は、大規模PACSには不十分であったため、PACSは暫く普及しなかった。近年、コンピュータの高性能化やネットワークの伝送速度向上により、病院規模のPACSが可能となり、2005年頃には、北海道大学附属病院は全病院規模のPACSを稼働し、フィルムレスとなった。近年、世界中でPACSを導入する病院が増加しており、1980年代後半に北海道大学附属病院が目指したシステムが、ようやく現実のものとなった。

    8. 遠隔画像診断(teleradiology)に関する研究

      CTやMRIなどの新しい画像機器が普及するにつれ、放射線科診断医の需要が急速に高まっていった。一方で、放射線科診断医が常勤している病院は一部の病院に限られてきた。特に、北海道は広大な土地に地域ごとの核病院が散在している。そこで、画像を放射線科診断医に伝送し、画像診断を行い、その結果を伝送元の病院へ返信するシステム、すなわち遠隔画像診断(teleradiology)の導入が必要と考えられた。入江五朗、宮坂和男らは、1988年に中標津町立病院と北海道大学附属病院との間で、電話回線を用いて遠隔画像診断の試みを開始した。当時の電話回線の伝送速度は9600bpsであり、画像伝送には不十分であった。そのため、高圧縮率の画像圧縮が必要となり、これにはPACSでの研究が役立った。その後、ISDNが導入され、伝送速度が向上した。これを用いて、セントラルCIクリニック、江別市立病院、倶知安厚生病院との間で遠隔画像診断を開始した。これらのノウハウを活かして、2002年4月に、北海道大学発医療系ベンチャーとして、メディカルイメージラボ(MIL)が札幌市に設立された。北海道大学病院の放射線科や核医学診療科などに所属する放射線専門医が、道内60以上の医療機関に、遠隔画像診断支援サービスを提供している。

  2. 放射線治療に関する研究

    1. 線量分布の最適化に関する研究

      当放射線科治療部門の長年のテーマは、時間的・空間的に最適な線量分布の追求である。初代若林教授は、間接作用の生化学的研究に基づき、最適な時間的・空間的(4次元)線量分布を腔内照射法で達成すべく、高線量率遠隔後充填腔内照射を世界で初めて実用化し、小体積であれば、少分割(1回あたりの線量は大)での治療が可能であることが分かり、外来的な腔内照射法が可能となった。30年後の現在、同治療法は世界標準となっている。最適な時間的・空間的線量分布の追求を、第2代入江教授は光子線外照射にて試み、短期少分割放射線治療について1970年代にprospective studyを行い、発表をした。一回線量が高いと、同じ総線量でも脊髄晩期障害の発生率が高いことを導き、短期少分割放射線治療は、照射体積が小さい場合のみ利用可能で、脊髄のような重要臓器は高精度の固定法で可及的に照射線量を下げることが重要であることを示した。照射野内に重要臓器が入ってしまう全骨盤照射などでは、1回線量を上げることはできないことも示した。これに基づき、頭頚部放射線治療での固定具(シェル)の全例への使用を日本で初めて実用化した。1980年代には、CT・MRI画像の普及があり、これを高精度放射線治療のためにいち早く利用可能とし、その実績に基づいて、辻井助教授らが京都大学との共同研究で1987年に放射線治療計画用CT装置を開発した。現在、先進諸国のほとんどすべての治療施設が同様の装置を利用している。最近最も北海道大学医学部放射線治療分野が貢献したのは、1990年初頭から発展してきた脳定位放射線照射である。同治療は、小体積に、少分割で、高精度固定装置を用いて放射線照射する方法で、上記の若林・入江教授の研究テーマの延長上にある。1993年から白土助教授が中心となって、脳定位放射線照射線量装置を開発した。その上で、脳動静脈奇形、脳転移性腫瘍ではガンマナイフと同程度、聴神経鞘腫・脊髄動静脈奇形では分割照射を加えることによって、それ以上の治療成績を挙げ、全国から患者が集まっている。直線加速器を用いた分割定位放射線照射に関しては、国内外からの見学者もあり、研究論文も多くの論文・教科書に引用されている。体幹部の病変に関しては、脳と異なり、呼吸・心拍・腸蠕動などの影響で動きを制御する必要があり、腫瘍の動きに同期させた治療が必要であることが分かっていた。1999年に、白土助教授らは、動体追跡照射装置を企業と共同開発し、0.03秒毎に腫瘍病変の3次元的位置を確認しながら、これが計画された位置に来た瞬間だけ照射することを可能とした。同治療法は国内外で高い評価を受け、注目を集めている。

    2. 放射線生物学的研究

      教室の開設当初の研究は、放射線の間接効果の研究で、放射線が引き起こす説明し難い数々の現象を追求し、細胞生物学の発展を取り入れて、発展してきた。1970年からは動物内に腫瘍を移植し、これに対する放射線の影響を調べることが可能となり、細胞だけではわからなかった生体系の反応を見るべく、全身照射の影響を免疫学的に検討してきた。宮本助手は1980年代に小線量全身照射は腫瘍の成長を遅らせる効果があることを示した。1990年代に入り、我が教室のテーマは分子生物学的手法をいままで解明されなかった放射線生物学に応用することになった。 橋本大学院生が小線量全身照射は、数々の細胞免疫制御因子を誘導することにより、転移を減らす可能性があることを示した。放射線で癌が治った後は、何故か生体は元の形に戻ろうとする。たとえば、”鼻の腫瘍が治ったあとは、鼻の形に戻る”。この現象を追求しているのは、白土助教授グループで、尾松大学院生が、その根本的な機序には形態形成に関与するHOX geneが関与していることを突き止めた。高研究生は、心臓への放射線の影響を検討し、毛細管への微細な影響を分子生物学的に検討した。腫瘍細胞の放射線感受性を調べることは、放射線治療を最適化するために重要な役割を有する。西岡助手らは、分子生物学的手法を腫瘍細胞に適応し、放射線感受性とアポトーシスとの関係を追及した。土屋大学院生は、脳腫瘍における腫瘍抑制遺伝子p53の役割を研究し、脳Glioblastomaではapoptosisは放射線感受性との関係が薄く、G0期でのirreversible arrestが強く関与していることが示唆された。

    3. 情報の電子化

      治療患者の情報の電子化は、入江教授が1970年代から世界に先立って始めたことである。その理念は今に引き継がれ、1970年から30年間、放射線治療患者の治療内容、治療結果、生存期間などをデータベースに保存し、患者生存率解析に役立っている。1980年からは、患者の画像情報もすべて電子保管されるようになり、現在は院内での治療を行った全患者の治療計画用CT/MRI/照合写真が電子管理・保存されている。これにより、多種画像を用いて腫瘍の形態だけでなく活動度も含めた情報によって線量決定を可能とした。さらに、1998年からは宮坂教授・白土助教授の研究で、他院での放射線治療患者へのコンサルテーションを電子化された情報・画像を用いて行っている。国内3個所、韓国1個所との遠隔放射線治療計画が可能となり、緊急放射線治療により、寝たきりになる可能性のあった脊髄麻痺患者の90%歩行可能とし、国内外の注目を集めている。また、病棟内の看護婦業務の簡易化のために、看護支援システムを開発した。これは1980年代から試行錯誤を繰り返しながら、1997年には病院情報システムと連動し、最も成功した例として国内外から注目され、1998年からは全病院規模の看護支援システムに発展した。

    4. 機能画像の放射線治療計画への利用

      西岡 健らは、核医学講座の塚本江利子先生らのご協力を得て、頭頚部腫瘍におけるFDG?PETを放射線治療計画に用いる研究を進めており、国際学会で高い評価を得ている。青山らは、脳神経外科の鎌田恭輔先生らのご協力を得て、脳磁図や機能MRI画像を用いた放射線治療計画を行っている。これらは今後の放射線治療の発展するべき方向を示しており、米国を中心とした学会にて国内外をリードするデータを発表しつつある。

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