放射線治療

癌医療で最近急激にその重要性が増加している放射線治療では、X線・電子線を利用した癌治療を中心に、脳や脊髄の良性疾患への治療も行なっております。一般放射線治療、定位放射線治療、強度変調放射線治療、画像誘導放射線治療などの最先端医療はもちろん、動体追跡放射線治療など世界的にみてもユニークな治療技術がここで生まれております。放射線治療の効果は数か月後に現れるため、短期間の学生や研修医の視点では把握しにくいですが、全身のあらゆる癌に適応があり、電離現象から細胞死そして患者様の生命を救う体験まで、放射線治療の世界は医療として学問として、非常に魅力的です。全国で初めて病院内に医学物理部門ができ、治療計画や新しい治療関連装置の開発をおこなっており、医学と理工学の融合的な研究が進んでおります。以下に、放射線治療を志す方へ、と題して以前に書いた文章を載せさせていただきます。

1.放射線治療とは…

放射線治療自体の進歩や抗がん剤や分子治療との併用で、いままで太刀打ちできなかった多くの癌の治癒率も安全性最近格段に向上しつつある。ただし、まだ治せないがんが多いのも事実である。それを治るようにするために、君たちはここにいる。人体の最小構成要素は原子である。細胞は分子で構成され、分子は原子で構成される。遺伝子治療や抗がん剤の限界は、遺伝子や薬のサイズが分子レベルであり、分子が”大きい”ため、血管から投与しても血管から遠い細胞に十分届かないことがあり、いわゆるdrug delivery systemとして研究されている。このdelivery systemとしての放射線治療の未来は明るい。”高エネルギーの光子”を、病気を治すためのひとつの薬と考えた場合、それはこの世の中で最も小さな薬である。高エネルギーX線を発生する放射線治療装置は、”高エネルギーの光子という薬”を病気に届かせるための”痛くない注射装置”と考えることもできる。 Ionization delivery systemとでも言おうか。”高エネルギーの光子”から見れば、人間の体なんぞ、”すかすか”の構造物であり、それは原子の間をどんどんすり抜けて病気のあるところまで到達することができるのである。最近の放射線治療である定位放射線治療や強度変調放射線治療や動体追跡放射線治療は、この”高エネルギーの光子”の優れた性質を非常に高めた治療法である。たとえば、北海道大学病院では、大手術でも全く手の届かない、しかも呼吸で動いているような体内深部の病気に対して、±1mmの照射が現実に可能な場合がある。早期肺癌などでは、夢のように思われていた「痛くない、外来で可能な、1週間で終わるがん治療」が実現され、いままで手術ができなかった肺機能の低下している患者さんや、なんらかの心理的トラウマで手術を拒否する患者さんに利用され、気がついたら手術と同じような治療成績になってきて、手術との第3層試験が必要である、という段階まで来ている。

いったい、がんやその他の病気の原因が分子どまりなのか、それとも原子までからんでいるのか、それすらまだわからない。100年前に細胞ががんの原因であると言い、50年前にDNAが癌の原因であると言ってきた人間が、最後に原子が原因であると言う日が来ないとは限らない。そのとき、がん治療はすべて放射線治療になるのかもしれない。

放射線の癌への効果

固形癌に対する局所治療には放射線治療と手術とがあり、化学療法はその補助的な役割を有する。手術と放射線治療の違いは、前者は人間の手で腫瘍を取り出し、後者は物理的な手法で腫瘍を消滅させる、あるいは大きくならないように制御する違いである。たとえて言えば、木の枝に張り付いた氷を取り去るのに、手術では木の枝を切って接木をするのに対して、放射線治療では湯をかけて氷を解かすような違いである。患者アンケートでは、従来は”効果は高いが有害事象も多い”というイメージが強かったが、最近は”外来的治療が可能で患者に優しい”というイメージが強まっている。一般的放射線の効果が期待できる疾患は多岐に渡り、ほとんどすべての悪性腫瘍と一部の良性腫瘍に用いられる。

図1に皮膚の扁平上皮癌の放射線単独治療前と放射線治療後2年での状態を示す。癌が溶けるように消失して、まわりから正常の皮膚が寄ってきて修復している様がよく理解できる。このような治療には60Gy程度を30回に分けて6週間程度で照射する分割照射が多く用いられる。このように長期的に良く治る場合でも、照射終了時にはまだ腫瘍が残存していたり皮膚が完全に覆っていないことが多く、治療後も外来で経過観察を必要とするのはそのためである。もちろん、再発に対する注意も外来観察が必要な理由である。

図1 皮膚の扁平上皮癌の放射線治療の(a)前と(b)2年後。

放射線治療が手術よりも優れた局所効果を示すことがあるのは、生体に放射線治療後に「もとの形に戻そうとする自然の力」があるからである。たとえば、図2には、鼻にできた悪性リンパ腫に放射線治療(40Gyを20回に分けて4週間で照射)を行った方の治療前後の状態を示すが、治療後は元の鼻の形にもどっている。分割して放射線治療が行われるのは、このように腫瘍細胞を消滅させながら正常組織がもとの状態に回復することを促すためである。

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図2 悪性リンパ腫の放射線治療前後。同一人物とは思えない。

3.放射線治療の適応と予後

1.適応

根治治療:脳・頭頚部・婦人科・泌尿器領域などでは、放射線を用いた根治治療が行われる。つまり手術は検査程度の軽いもので、癌を根本的に放射線で治すのである。使われる放射線量も多いため治療中・治療後長期に渡る放射線による有害事象への注意が必要である。

術前照射・術後照射:手術単独だと変形したり、機能を失うことで患者さんの社会的人間性が損なわれる可能性が高い場合、縮小手術と放射線治療が適応となる。代表的なのが、乳がんの温存治療である。早期の乳がんに対して、20年前には大胸筋を切除する治療が標準であったが、現在は手術にて腫瘍部分だけを小さく摘出し、その後で50Gyを25回に分けて5週間で術後照射するのが標準的な治療となっている(図3)。

図3 第1期乳がんの20年前の手術後と現在の放射線治療を用いた温存療法後

緩和医療:転移性骨腫瘍における痛みの緩和に用いられる。痛み物質を出す細胞を放射線が殺すために即効性があるらしい。転移のある脊椎骨が照射の半年後以降に石灰化が進んで硬い骨構造が再生することも期待できる(図4)。数か月の予後しかない患者さんの生活の質を1回から数回の治療で数週間以内に80%の方で向上できる、優れた緩和医療である。

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図4 転移性脊椎腫瘍への放射線治療前後のCT画像。
治療後に骨の石灰化によりもとの脊椎骨の形態がもどっている。

2.予後

放射線治療を行った患者さんが治癒する確率は、実際には90%以上治るがんの温存療法の方も居れば、10%以下しか5年以上生存しない進行がんの方も居て、”放射線治療をする”というのは”手術をする”というのと同じように、極めて多岐に渡る内容を包含している。放射線治療を受ける患者さんが来たら、大まかに表1のどの目的なのかをまず把握することが大切である。

表1.放射線治療が良い適応となる疾患の全体的予後(5年生存率)

  1. 形態・機能温存療法で、生命予後が良い(80%を越える)
  2. 根治的治療であるが、生命予後が中等度の場合(30−80%)
  3. 生命予後が悪い場合(30%以下)
  4. 緩和医療(5%以下)

医療者や家族や介護者に求められる主な役割はそれぞれの目的でおのずと変わり、その医療の大局的な目的を把握しておく必要がある。同じ疾患、病期でも治療方針が異なる場合もあり、治療方針を確認しておくことで、的確な医療が可能になる。

表2.疾患の予後と医療の目的

疾患の予後 医療の目的

  1. 死に対する過剰な患者不安を取り除き、治療後の早期社会復帰を患者とともに探る。
  2. 理性的に治療の意義を理解させ、できるだけ計画通りに治療が行えるようなバックアップをする。
  3. 治療の意義や臨床研究の意義の理解を助けると同時に、緩和医療的サポートとの選択やそれとの変更を常に念頭に置く。
  4. 腫瘍にとらわれすぎずに、症状の軽減を主目的とし、患者状態に柔軟に対応する。

4.治療計画と治療方法

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放射線治療は、図5に示すような流れで行われる。一般的には、医療用直線加速器を用いることが多く、患者は治療台に10分程度寝ているだけであるが、定位放射線照射や強度変調放射線治療や動体追跡照射では、1時間近く動かないという苦痛を強いられる場合も増えてきている。照射中には体位保持具を作成してから治療計画、照射を行うこともあるが、できるだけ患者さんが苦痛なく体が動かないように注意することが必要である。

1.治療室内での注意

治療台は床から1m以上高い位置にあるため、常に転落の危険があり、医療者にはその予見義務と観察義務がある。

  1. 体をバンドで止めるなどで、転倒事故に十分注意する必要がある。
  2. 特に意識の悪い患者などでは、照射中にパルスオキシメーターを装着し、操作室からビデオカメラで観察することが必要である。
  3. 小児や体動の多い患者では、全身麻酔化での治療が適応になることもある。
  4. いずれの方法でも転落の危険が阻止できない場合には、治療適応とならない場合もある。
2.固定具作成

頭頚部や脳の治療では、熱で柔らかくした樹脂でその人に合った形の固定具を作る固定法がよく使われる(図6)。 顔に暖めて柔らかいプラスチック板を載せる時に、患者に不安を与えないように、事前によく説明をする。

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図6 頭頚部領域で用いられる可塑性樹脂による放射線治療用固定具
固まるのに5−10分くらいが必要。

3.治療計画

治療計画にはX線透視装置やCT装置やMRI装置が用いられ、腫瘍のある部位を照射して正常組織を避けるように放射線ビームの方向やサイズを決定する。2次元治療計画は、X線透視装置にて照射範囲を決定し、患者を治療計画台に載せた状態で、皮膚上にマークを付ける。3次元治療計画は、CT画像やMRI画像を元に、どの方向からどの程度の量を照射するかを、医師、医学物理士、技師が協力して決定していく作業であり、原則として患者は治療計画台を降りて、帰宅したあとに行われる。この場合には、CT撮影時の基準点を示すマークや照射野そのもののマーキングをCT撮影時に皮膚表面に行う。これらのマークが消えると、治療計画を実際の治療の際に再現する手だてが失われるため、マーキングの大切さを患者に説明する。最近は、前立腺癌などで、腫瘍近傍に金属のマーカーを刺入して、その位置をX線写真で毎回治療時に確認し、患者のセットアップの際に利用する方法も増えている。

放射線治療では、CTや透視装置などの画像装置を治療室に備えることで、最近極めて高精度になってきており、実際に手術に近い精度で腫瘍部位のみに放射線を集中できるようになってきている。

4.放射線の吸収と線量

X線を体外から照射した場合、一部は体をすり抜けるが、ビームが照射された範囲だけに放射線が吸収されるため、照射範囲以外のどこか別の部位に効果が現れることは原則としてない。従って、各組織に吸収される放射線の量を正確に知って初めてその効果を予測することが可能となるため、”どの部分にどれだけ吸収されたか(線量とその分布)”が最も重要である。

1.線量

放射線が物質に照射されたとき、放射線は物質の中でその持つエネルギーを吸収される。この物質の中で吸収されたエネルギー量を一般に(吸収)線量といい、Gy(フレイ、1Gy=1J/kg)という単位で表示する。”線量”というのは、実は”その部位毎の線量”のことであるので、顔に照射された線量と腹に照射された線量を足し算することはできない。(重量よりも密度に近い概念である)。

図7.(a) 全腹に1Gy照射した後で、その一部の胃に1Gy追加すると、重なった頭頂部には2Gy照射される。(b)頭部に1Gy照射した後で、腹部に1Gy照射されると、重なりがないので、それぞれに1Gy照射され、全体で2Gyとは言わない。(c) 肝に1Gy照射した後で、胃に1Gy照射。部位は違うが一部重なる場合、重なった部分は2Gy照射される。

2.空間的線量分布

線量分布は物質内の各点における線量の割合を示す。

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図8 3次元治療計画装置を用いた前立腺癌の強度変調放射線治療の線量分布

3.時間的回復現象

また、生体では照射された正常組織は時間とともにある程度回復し、また腫瘍はある速度で増殖するため、”どれだけの時間内に何回に分けて照射したか(線量の時間的配分)”は放射線治療の効果を占う上で非常に重要である。

4.線量と目的

以下の原則を知っていると、大きな間違いはない。

表3.総線量と治療目的

1.根治的治療では60Gy以上30回程度の照射が用いられることが多い(リンパ腫・胚細胞腫では40Gyでも根治線量)。

2.緩和的治療では、できるだけ患者通院の回数を減らすため、10〜30Gyを1〜10回程度に分ける照射が用いられることが多い。

3.術前照射や術後照射では、40−50Gyを20−25回程度に分けて照射することが多い。

4.深部まで届くためにはX線が、皮膚表面の疾患には同じ直線加速器から出る電子線が用いられる。

5.良性腫瘍や一部の悪性腫瘍の根治的治療では、一回から数回の照射を定位的装置を用いて高精度に行う。

5.放射線治療の有害事象

放射線治療専門医は、有害事象に対する予防と対処ができるようにトレーニングされる。たとえば、頭頚部腫瘍の有害事象を「眼で診て、患者さんの訴えを聞いて」覚えておいて、その類似で他をイメージしていくことが良いと言われている。

1.吐き気など二日酔い的症状は、照射直後から数日間に現れることがあるが、その後落ち着く場合が多い。

2.照射範囲に含まれた粘膜・皮膚は2−3週間後に赤み・表面の荒れなどの反応が現れ、痛みを感じる場合には鎮痛剤を十分に用いる。照射終了後に落ち着くが、根治的照射では長期間の休止なくこれを乗り切ることが大切である。

3.全治療が終わって1−2年後に数%の患者さんに粘膜のびらんや下顎骨の血行障害など晩期有害事象が出ることがある。治癒して5−10年後に治療部位の硬結による症状が現れることがあり、これらを減らすために、最初の治療時に高精度に必要最小限の領域に照射する工夫が必要である。

これらの予測と適切な対処をすることができるようになるには、放射線治療医として日本放射線腫瘍学会認定施設での研修が重要である。

6.関連する教育書

・放射線科エキスパートナーシング(宮坂和男、道谷英子 編集)改訂第2版 南江堂
・直線加速器のよる定位放射線照射の理論と実際(編集 柴田尚武 白土博樹 平岡眞寛)

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