Q and A 集

放射線治療における医療事故防止のための安全管理体制の確立に向けて(提言)

中間報告に関するQ&A集
平成16年10月20日
放射線治療の品質管理に関する委員会
日本医学物理学会
日本医学放射線学会
日本放射線技師会
日本放射線技術学会
日本放射線腫瘍学会
(アイウエオ順)

はじめに

当委員会では、放射線治療の品質管理に関する基準やガイドラインに関して、関係5団体による検討を行い原案をとりまとめたところであります。しかしながら、内容が多岐に渡るため、理解しづらいところもある、というご指摘を受け、今般、これらの基準やガイドラインの内容を、より一層ご理解いただくため、Q&A集として、本解説書を作成いたしました。 本解説書が、放射線治療の品質管理を進めていこうとする医療機関や団体・企業の関係者の皆様方の参考資料として活用され、放射線治療の一層の発展に着よすることができれば幸いです。
最後に、本解説書を作成するにあたり、多大なご支援・ご協力を賜った関係各位に厚く感謝の意を表する次第であります。

放射線治療の品質管理に関する委員会
平成16年10月20日 議長 早渕尚文

放射線治療の品質管理に関するQ&A集

  1. この提言は、理想的なレベルの放射線治療装置の品質管理のような気がしますが、”絵に描いた餅”に終わりませんか?
    放射線治療の過剰照射に関して、十分な対策を取ることは、国会で国として答弁していることであり、外国のプレスにも流れており、IAEAなど国際機関もそのなりゆきに注目しているようであります。われわれ委員会としては、国際基準に照らしても問題のないレベルでの中間報告をする義務があると思っております。我が国のローカルな実情に合わせるように、実現までの猶予として、5年間をとってあります。
  2. 最低限の基準とするには厳しすぎませんか?
    放射線治療の過剰照射は、放射線障害により人が死亡するレベルの高線量であるため、放射線診断や核医学領域の基準よりも厳しくならざるを得ません。内容的には5年後の「到達目標」として示しておりますが、国際基準と比較すれば最低限の基準だと思います。われわれは、いろいろなレベルの施設を、限られた専門家集団でどのように最低限の品質管理を目指したらよいか、という視点でこの提言を作りました。そのために、非常勤や契約職員も、「放射線治療品質管理を専らの業務とする者」に成り得る基準を提言したわけです。できるだけ、実際の現場に無理のかからない方法で、しかし現場の数名の放射線治療技師や医師だけで問題を解決しようとする危険を避ける方法として考えました。非常勤や契約職員が行えるように、早急に環境を整えていく必要があると思います。
  3. これを遵守すると、問題になっている過剰照射や過少照射を完全に防ぐことができますか?
    過剰照射、過少照射という現象は、統計学的には放射線治療の品質の標準偏差が大きいことを意味しています。品質管理というのは、ばらつきの程度を減らす作業ですから、これを遵守すれば、品質の標準偏差は必ず減りますので、過剰照射や過少照射は自ずから減るはずです。 しかし、医療事故を未然に防ぐには、品質管理たけでなく、”人は誤りを起こす”という前提に立った、リスク・マネージメントが重要です。
  4. 品質管理のために新たに加わった内容としては何がありますか?
    「新たに加わった内容」は、各施設での放射線治療品質管理委員会の開催、第3者機関によるチェック、関係する人への継続的な教育です。そして、品質管理作業を業務として病院が認知し、作業時間帯・専門性を理解して、「放射線治療品質管理を専らの業務とする者」や「放射線治療品質管理に関わる者」を任用して、放射線治療品質管理部を設置することが新たな内容です。
  5. 「放射線治療品質管理を専らの業務とする者」を、常勤で雇える施設は、現在の経済環境ではどの程度ありますか?
    「放射線治療品質管理を専らの業務とする者」を常勤にできる施設は少ないかもしれませんが、マスコミ・国民がすでに放射線治療における「放射線治療品質管理を専らの業務とする者」の大切さを知っておりますので、余裕のある病院間では、「放射線治療品質管理を専らの業務とする者」を雇うことで病院の質を高め、それによって患者を集めようという健全な競争機運が出てくると思われます。
    資金のある病院などが、「放射線治療品質管理を専らの業務とする者」の任用なしで新しい装置を買うことで「先進医療」を唱うことも減らせると思います。それは、いままでのように、目新しい治療器を入れて先進的とみなす風潮を是正する意味で、重要な方向だと思います。医療関係の雑誌やマスコミなどにも、品質管理を専らとする者を常勤で雇う施設を、先進施設として紹介するなどの動きが出てくることを期待しております。
  6. 非常勤の「放射線治療品質管理を専らの業務とする者」を雇う施設はありますか?
    非常勤であれば、優れた「放射線治療品質管理を専らの業務とする者」を雇いたい、という病院が少なくないことは、非公式ながら調査しております。病院経営の苦しい多くの病院が抱える人件費の問題は極めて重大でありますが、非常勤や契約による任用を活用して、基準を満たす努力をしなければ、国民が安心して放射線治療を受けられる医療にはならない状況にあると思います。
  7. 「品質管理委員会と放射線防護委員会との独立性」が書かれていますが、同じ人物がならざるを得ない場合も多いのではないでしょうか?「同じ人物が兼任することを妨げるものではないが、その場合にもそれぞれの部署における立場は異なっていることを努めて認識する必要がある」、ということです。 あくまでも、異なった業務であり、人格としては違う立場にいることを認識するべきである、という論理です。ただ、必要な専門知識・作業がかなり異なりますので、余裕のある施設では、異なった人物が行うべきであることは明らかです。
  8. 放射線治療装置1台あたり年間1605時間となっています。
    放射線治療装置が3台ある施設では、常勤で3人の「放射線治療品質管理を専らの業務とする者」が必要となりますか?
    すでに通常の業務時間の中で、医学物理士や放射線技師などが品質管理を行っている施設では、新たに1605時間が発生するわけではなく、それらの業務のうち、この程度の時間が品質管理に費やされている、という試算であります。これは、あくまでも1つの例であり、装置の種類、装置数や業務効率などで変動し得ることに注意してください。 各施設では、品質管理業務の量を明示的に算出することにより、各施設に必要な体制を整えるべきであります。確かに、欧米では放射線治療装置1台あたりの「放射線治療品質管理を専らの業務とする者」が1名程度の施設も多くありますが、それを日本国内で5年以内に達成できるとは思いません。しかし、同時に2台以上の装置を購入した場合などは、2名以上の人間が導入時の品質管理業務に必要であると考えるべきです。そういった場合には、非常勤や契約職員の一時的なサポートも考えるべきかもしれません。
  9. 放射線治療品質管理部ですが、治療方針の管理者、照射技術の管理者もその下につくのでしょうか。
    「放射線治療品質管理を専らの業務とする者」の下に放射線治療医がつくことになります。
    欧米ではそうなのですが、日本で受け入れられますか?
    放射線治療品質管理を専らとする者の組織上の位置づけは、病院や放射線治療部門の規模や歴史により異なり、各病院で適切な方途を考えて頂くものであり、実際には、各施設での人材の構成によって、各施設ごとのそれぞれのやり方があると思います。例に挙げた組織図は、看護師がジェネラル・リスク・マネージャーになって、その下に各科がぶら下がっていることを例としています。品質管理の上からは、既存の組織図の上下関係とは独立するほうが効果的な場合もあると思います。研修中の放射線治療医などに対して、「品質管理を専らの業務とする者」が指導的な役割を果たすことは、非常に大切なことだと思います。
  10. 放射線安全室は患者の放射線被ばくも関係していますが、これと放射線治療品質管理部との関係は?
    患者本人に対するX線透視・CT下のインターベンショナル・ラジオロジーは放射線安全室でも関係しているので、この点に関しては相互の協力体制あるいは同一人物による管理も十分あり得ます。しかし、放射線安全室に必要な知識・技能は、放射線診断・核医学・防護など、放射線治療の品質管理とは全く異なる場合が多いので、安易に同一人物が両業務を兼任することは望ましくありません。
  11. 放射線治療専門の医師がいない病院での放射線治療が大きな問題のような気がしています。
    この「放射線治療品質管理を専らの業務とする者」と同時に常勤の放射線治療専門医が必要ではないでしょうか。
    放射線治療専門医が不足しており、その増員が重要なことは全く同感であり改善の余地が大きいと思います。しかし、残念なことに、今回の一連の過剰照射の事故では、放射線治療担当の医師も技師も常勤していたにもかかわらずに、起きております。今回の提言でも、医師や技師の定期的な研修体制を強化することを唱っておりますが、医師も技師も、本来はそれぞれ品質管理業務以外が本業であり、片手間で品質管理をすることに陥りやすいことには変わりありません。やはり、放射線治療の品質管理を、医師数や技師数を増やし、その質を高めることで対応することには限界があることが、今回の提言の最も大切な点であります。
  12. 第3者機関による品質評価は効果的な手段と思いますが、今後の対応は?
    今後の会議の話し合いの中で、具体的な内容を決めていく予定です。いくつかの団体に必要費用などの算定をお願いしております。また、企業が品質評価をし、学会などがその企業に対する公的規制をかける、という方法も考えたいと思っております。
  13. これらの一連の放射線品質管理に関して、費用的な裏付けはありますか?
    診療報酬上も放射線治療の品質管理に関しての意識が高まってきております。体幹部定位放射線治療では、それを行おうとする施設基準の中に、放射線治療の品質管理を専らとする者が必要となっており、同治療を行う施設には診療報酬上の優遇があることになります。しかし、残念ながら、この治療は年間の適応患者数が少なく、放射線治療全体に対する貢献度はほとんどありません。
    上述しましたように、放射線治療の品質管理に関しては、国民の批判の高まりもあり、国会でも議論されているところであります。今、日本人の3名に1名は癌になり、そのうちの10〜20%は放射線治療を受けており、その比率は年々増加しております。国民が安心して放射線治療を受けられるように、今後の診療点数の改正などの機会に、品質管理に対する費用的な裏付けを、国全体として早急に実現するべきであると思います。
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